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漁村振興と魚食普及などについて紹介しています。

水土舎通信

つくる人と食べる人、浜(産地)と都市(消費地)との新しい関係

 岩手県大船渡市・綾里地区…皆さんは、この地がどの辺りにあるのかご存知でしょうか?大船渡市の中心市街地から15㎞程離れたところにあり、人口は約2,600人、その6割が漁業に従事する漁業の町です。

 綾里地区には、住民の生活の足として重要な三陸鉄道南リアス線が通り、駅が2つあります。そのうちの一つは「恋し浜」駅というロマンあふれる駅名で、実際にここを訪れたカップルがゴールインする例も多く、これが口コミで広がり観光スポットにもなっています。

 この地区の漁業者青壮年部の方々は、東日本大震災以前から「恋し浜ホタテ」というブランド名で消費者に直接販売する取組を続けていました。当地も震災で大きな被害を受けたのですが、その復旧・復興の過程で、かつての「恋し浜ホタテ」のお客さんたちがボランティアとして強力に支援してくれました。このことがきっかけで、青壮年部の人たちはより強く、より深く消費者の方々と関わりを持っていこうと考え、交流拠点ホタテデッキの整備、「浜の学び舎」の開催等、様々な取組を展開するようになりました。取組はどんどん浸透し、他の漁業者や地域の人々も巻き込んで、地域外の様々な人たちとの交流が広がり、深まっていきました。

 交流の深まりに伴って、地域外の消費者たちの気持ちに変化が出てきました。もはや地域外の人ではなく、「綾里の人」という意識が強まっていったのです。彼らは、自発的に綾里の応援団として活動し、「綾里ファンクラブ」という組織まで立ち上げて、地域を応援するようになってきたのです。綾里地区では、現在も交流を通じて地域のファンが拡大し、地域住民の意識も変わってきています。地域の活力も、震災前と比較しても戻ってきています。

 現在、「地方創生」や「浜の活力再生」といったことが声高に叫ばれ、政策的な支援も推進されています。一方で、そうした支援がありつつも活力が十分に再生しきれていない地域も数多く存在しているのが現実です。綾里地区の事例はとても良い漁村地域の活性化モデルだと考えます。地域内外に同じ気持ちで地域を愛してくれる支援者(ファン)を創っていくことが「活力再生」の大きなカギになるでしょう。これまでの「つくる人」⇔「食べる人、買う人」といった関係性だけでなく、綾里地区で見られる「一緒につくり、一緒に食べる」関係を構築することが活性化への近道ではないでしょうか。(麓) 

漁業の担い手問題とその対策について

 現在、漁業に限らず、産業界は人手不足が大きな問題になっています。我が国全体が人口の減少局面に差しかかりつつある中で、特に漁業を基幹産業としているような漁村地域では、早くから高齢化の進行や若年階層の流出が目立ち、人口減少が問題視されてきました。

 こうした中、漁業の担い手の確保・育成のための支援策が、国を始め、都道府県、市町村、系統団体あげて取り組まれるようになっています。各地で漁業者に必要な技術や知識を学ぶための「漁業学校」と呼べるような仕組みが立ち上がっていますし、都市部の住民と漁業就業の機会をマッチングするイベントも定期的に開催されています。

 私自身も、こうした各地の取組の中で座学の講師としてお話をさせていただいたり、漁業現場での就労研修のアテンドをさせていただいたりと様々な形で携わらせていただく機会が増えてきています。各地の取組を見ても、最近は、就業の入口段階での支援はかなり充実してきていると考えているところです。

 現在、私がより重要な支援として考えていることは、就業後の道筋を示すことです。特に、当該地域外から就業するために移住してきた方々にとっては、人的ネットワーク、漁業操業に必要な生産資材、住居等の生活資本等、それらの蓄積がない中で、新たな環境に飛び込んでいかなければなりません。しっかりと地域に定着し、持続的な漁業経営を確立するためには、必要な資産(人、モノ、金)を形成することが不可欠であり、漁業就業後の道筋(=漁業経営や暮らしの成長モデル)が必要と考えます。もっと言えば、全国の各浜において、地域の漁場条件や活用可能な資源を念頭に置きつつ、個別漁業経営の成長モデルをどのように描き、当該地域の漁業の最適化(個別漁業経営体の規模、地域における漁業者・漁業経営体の数の最適化)を実現していくのかというビジョンが必要と考えます。

 今、浜の活力再生プランが全国各地で検討、策定され、取組が展開されています。多くの浜で担い手対策は重要な取組として位置付けられていることと思います。上記のビジョンも含めて、浜プランの策定が行われ、将来にわたって持続的な漁村地域が一つでも多く形成されることを切に望みます。(麓) 

宮古・下閉伊モノづくりネットワークに参加して ~宮古のマダラは日本一!~

 皆さんはご存知だったでしょうか?

 岩手県の宮古魚市場は、岩手県内の9割のマダラが集約的に水揚げされ、国内最大の水揚量を誇る産地です。漁港単位では、日本一のマダラの産地なのです。(平成26年 産地水産物流通調査より)

 宮古魚市場に上場されるマダラは、沖合底びき網漁業を中心に、延縄、定置網等の漁法で、漁獲段階から鮮度・品質にこだわって生産されています。また、水揚後、市場に搬入されてからは、厳格な品温管理を行っていることも注目されます。

 実は、こうした取り組みは、早くから進められてきました。岩手県は、県下全域でこうした鮮度・品質・衛生管理に熱心な県として知られています。中でも、宮古魚市場は全国的にも先進的な市場と言えるでしょう。

 震災後は、市場の復旧・復興と併せて、より高度な地域全体の取組として発展し、「高度衛生品質管理地域づくり」として取り組まれています。漁業者から市場、関連する流通・加工業者の方々まで含めて、地域全体で鮮度・品質にこだわり、ブランド化に向けた取組みが進められているのです。

 マダラは、鮮度落ちが早いものの、クセのない白身で、消費のすそ野は広い魚です。宮古の強みである日本一豊富なマダラを様々な用途に安定的に仕向けることで、確固たるマダラの産地として認知され、産地ブランドが形成されることと期待されます。

 モノづくりネットワークの方々、事務局の宮古水産振興センターの方々も、熱く取り組んでおられます。私も微力ながら、今後も「宮古のマダラ」ブランドの確立に向け、応援していきたいと思います。

 皆様、ありがとうございました。    (麓 貴光)

  ※右のポスターは、岩手県庁HPよりお借りしました。   

ショキタテナガエビ(西表島産陸封性固有種)から発見された、新種の淡水産エビヤドリムシ!

ショキタテナガエビ(西表島産陸封性固有種)から発見された、新種の淡水産エビヤドリムシ!
ショキタテナガエビ(西表島産陸封性固有種)から発見された、新種の淡水産エビヤドリムシ!

 弊社では、海産プランクトンを中心に、主に水生動植物の分析に取り組んでおります。生物分析は単に標本と図鑑とを照合する作業ではなく、その生き物がどういった生態をしているのか、時空間的にどういった出現をするのか、量的に普通の生き物なのか、レア種なのか、そういった生物のバックグラウンド的な知識も要求されます。必然的に、元来からそういったことに興味を持つものが、この業務への適性が高いと思われます。

 社員の一人、齋藤もそういった嗜好性の持ち主で、就業以前から甲殻類について非常に高い興味があり(ほぼ“愛”と呼べる感情ですが)、学生のころから標本の蒐集や学会への参加を行ってきました。このほど、学部学生時代に知り得た未記載種のヤドリムシ(等脚目甲殻類)を、彼自身の研究によって、「ショキタテナガノエラヤドリProbopyrus iriomotensis Saito, Shokita & Naruse, 2010」の名称で、学界に新種として発表されました。民間企業の研究員が新種記載するその顛末を、エッセイとして発表していますので、その全文を掲載します(下のPDF)。弊社社員の隠れた(?)側面をご笑覧いただけたら幸いです。

>>詳しくはこちら!!!(PDF)

※齋藤暢宏(2011)寄生性甲殻類の1 新種,ショキタテナガノエラヤドリについて~アマチュア研究者新種記載顛末記~. Cancer, 20: 39-41. より、日本甲殻類学会和文雑誌Cancer編集委員会の許可を得て転載しております。


地の物こそが地域振興のカギ【2011.9.1】

 弊社は、水産政策提言から地域振興策策定、環境調査など水産業や地域、環境に関することを業務としており、そのフィールドは海だけでなく河川、湖沼なども対象に幅広く手掛けております。そのため、調査先は日本全国、北は北海道から南は沖縄まで、また海なし県であっても、河川や湖沼を有する地方自治体からも業務を頂いております。

 こうして日本全国を調査している中で、やはり出張の楽しみと言えば「食事」です。その土地で獲れたもの、その土地の名産、名物料理など、その土地でしか味わえないものを食べることが何よりもの楽しみです。

 しかし、時には残念なことに宿泊所によっては、冷凍のマグロやタイ、サーモンのお刺し身、塩鮭など、どこででも食することが出来る食材が並ぶことも珍しくはありません。おそらく宿泊所の方々の想いとしては「おもてなしにはやはりマグロを!!」、「日本の朝食は塩鮭!!」、「地の物では供給量が安定しておらず、やりくりが大変」、「一般的に知られていない魚や食材ではお客様は満足しないのでは?」など多くの理由があることだと思います。しかし、一消費者、一旅行者としてはやはり地の物を頂きたいところです。一般的には名の知れていない魚や特産物であっても、美味しい食材は沢山あります。こうした全国的には名の知られていない食材が食卓に並んだ際に、お客様から「この食材はなんですか?」と聞かれるところから新たなコミュニケーションが広がり、その宿泊所の、ひいてはその地域の新たなファン・リピーターを獲得するチャンスが生まれるのではないでしょうか。

 アンテナショップやインターネットの普及によって、都市部にいながらにして、地方の特産品を食することが出来る時代になりました。しかし、その土地へ足を運ばなければ食べられない食材や、その土地に赴いたからこそ出会えた物が必ずあります。日本全国どこででも品質の高いマグロを食すことが出来るようになったその冷凍技術と流通システムは素晴らしいものですが、その土地の物を求めていらしたお客様には、ぜひその土地の物を食して頂きたいと思います。そして受入先の地域の皆様には、ぜひとも土地の食材や特産物に自信を持ってお客様にご提供して頂きたいと切に思います。(野口)

五島列島の福江島

 長崎県は五島列島の福江島にお邪魔した際、レンコ(キダイ)の塩焼きや、ウチワエビの味噌汁など地の物を沢山使ったお料理を頂きました。

 特別に出して頂いたキントキダイやイサキなどは、お刺身で頂きました。身がぷりぷりっとしていて、とても美味しかったです。これこそ、この土地でこそ頂ける味です。また、ウマヅラハギは、民宿のおばちゃんから「あんたらこんなもん食うとね?!」と逆に驚かれました。

東日本大震災について【2011.6.1】

 東日本大震災において亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに、被害を受けた方々に対しまして心よりお見舞い申し上げます。

 津波による沿岸域の被害は甚大なものであり、漁船や漁具、養殖施設等の海上施設のみならず、市場や冷蔵・冷凍施設といった陸上施設においても大きな被害を被っております。水産業は、造船や漁具製造、製氷、冷蔵・冷凍、加工、流通等、多くの関連業者によって成り立っている産業です。つまり、東北地域における水産業の復旧・復興には、これら全てに対して同時並行的な支援が必要となります。

 水産業の復旧・復興に向けて

 ①海洋上・海底のガレキ等の撤去及び水質調査
 ②漁港及び市場等のインフラ整備 
 ③漁船・漁具の再建 
 ④製氷・冷蔵・冷凍、加工業者等への設備投資の補助 
 ⑤輸送手段(トラック等)の確保 
 ⑥漁業者及び関連業者に対して適応される補助金制度等のサポート

 等が必要であると考えます。

 私たち水土舎社員も水産業に携わる者として、東北地方の水産業復興に尽力する所存であります。


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