2025年5月26日

【コラム】海業に取り組むにあたっての共通課題


1.はじめに

日本には2,700を超える漁港が存在します。

しかし近年の水産業の縮小などに伴い、使われなくなった漁港用地が増えています。

そんななか、国は漁港用地の利用に関する法律の一部を改正し、同時に「海業」の振興を位置づけました。

さらに水産庁は海業の推進事業を新たに設け、使われなくなった漁港用地を活用した地域活性化を推進しています。

地域活性化に資する持続的な事業として、各地で海業に取り組んでいます。

今回は取り組んでいる地域の事例をもとに「海業に取り組むにあたっての共通課題」について考察していきます。

 

2.ケース①

この地域は高齢化が深刻で、漁協や地域住民が事業者となって海業に取り組むことが難しい状況にあります。

そのため海業計画は、事業実施者を地域外から参入する民間企業を想定して策定されています。

漁協も地域住民も、海業による地域活性化には賛成しています。

しかし、民間企業は協議会には参加しておらず、事業者が未確定の状態での協議となるため、

「誰が実施するのか」「資金調達はどうするのか」といった課題が協議の中心になりがちなことが課題として挙げられます。

 

3.ケース②

この地域は人口減少や高齢化が進んでおり、地域産業の活性化や地域住民の交流の場の創出が望まれています。

今回の海業計画では、使われていない漁港施設や漁港用地があり、

地域住民や観光客が集まる施設をつくることが計画に盛り込まれています。

また、海業を進めるにあたって漁港施設の解体や施設整備が必要になりますが、

そのためには数億~10数億円規模の事業費が必要になるため地方自治体が全てを賄うことは難しい現状にあります。

施設の整備は地方自治体が一部行う予定ではありますが、残りの施設整備や施設の運営などは民間企業が行うこととなっています。

そのため、民間企業の力を借りて事業を行うことを見込んでいますが、

数億円規模の投資を行って事業を行おうとする企業が現れるかは不透明であります。

 

4.ケース③

この地域では、豊富な地域資源を活用して観光客を呼び込もうと、

地方自治体や漁協、関連団体が中心となって海業推進のための団体を立ち上げ、海業に取り組んでいます。

今回の海業計画では、これまで体験メニューとして実施してきた取り組みを、観光客向けに本格的な事業として展開することが盛り込まれています。

なお、施設整備が必要な箇所は一部に限られており、ケース②のような施設の建て替えに関する資金面での課題は少ない状況です。

しかし、事業化を進めるにあたってはノウハウ、スキルを持った担い手の確保などの人材面や収益性、運営体制の課題が考えられます。

これらの課題に対して、協議会の参加者が現在の業務に加えて対応するのは難しく、民間企業の力を借りざるを得ない状況にあります。

実際、協議会の中では、地域資源が豊富であることから多くのアイデアが出されている一方で、

「誰が実際に事業を担うのか」という点に議論が集中し、計画が進みにくい状況にあります。

 

5.まとめ

各地域での海業計画策定の取り組みを通じて、以下のような共通する課題が明らかになりました。

1)担い手・運営主体の不在・不明確さ

いずれのケースでも、「誰が事業を実施するのか」という点が議論の中心となっています。

協議会で出るアイデアに対して、現実的な推進力が不足しており、実施主体の不在が大きな障壁となっています。

地元住民や漁協は海業計画に賛成しているものの、自ら事業を担うことが難しく、民間企業に依存せざるを得ない状況が見られます。

2)資金調達・収益性の不確実性

施設整備を伴う場合、数億円単位の初期投資が必要となるケースもあり、自治体のみでの資金確保が困難であります。

また、事業化に向けた収益モデルの構築や長期的な経営見通しが不透明であり、民間事業者の参入が進みにくい状況にあると言えます。

 

(所感)

地域の人口減少や水産業の縮小といった課題に対する解決手段として、海業がどの程度有効であるかを検討することが重要です。

海業は、「地域資源×ニーズ×実行力」の3つがかみ合って初めて効果を発揮する事業であるため、

いずれかが欠けている場合には、「本当に今、海業に取り組むべきなのか」という視点から冷静に協議を行う必要があります。

地域の賑わいを創出するには、海業に限らず、その地域にとって最も効果的な手段が、現実的な形で実行されることが望まれます。

 

水産振興部 研究員 吉原 誠人

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