2025年12月25日に開催された社員有志による釣り大会(納会の食料調達を目的とする)で釣獲されたヒメHime japonica (Günther 1877)(ヒメ目・ヒメ科)の口腔内にウオノエ科等脚類を発見した(図1)。
2年前にも同大会でヒメに寄生したウオノエ類が観察されているが(石倉私信)、標本は遺失していた。今回得られた標本をもとに、ウオノエ科等脚類について紹介したい。
ウオノエ科等脚類は魚類寄生性の甲殻類で、海産、汽水産、淡水産魚類の口腔、鰓腔、体表、あるいは体腔に寄生する大型の寄生虫である。
世界から390種以上が知られ、このうち約50種が日本から報告されている。
口腔寄生種は宿主の舌の上につく種が多く、あたかも魚がくわえた餌のように見えることから「魚之餌」と呼ばれるようである。
その記録は江戸時代の博物書にもみられ、水産国日本では古くからその存在は知られていた。しかし、専門とする研究者は意外に少なく、近年においても新種の発見は続き、生態に至ってはほとんどわかっていない。
ヒメから得られたウオノエ類は、椎野(1951)によってCymothoa eremita (Brünnich, 1783)に同定されている。
『新日本動物図鑑』(椎野, 1965)では本種に「うおのえ」の和名が与えられている。
しかし、椎野(1951)による記載はわずか3行の簡素なものであり、C. eremitaに同定した根拠は不明瞭である。
とはいえ、この報告はC. eremitaの日本からの記録として国際的にみとめられていて、Hadfieldら(2013)やMartinら(2016)にも引用されている。
Hataら(2017)がDNAの塩基配列を登録したヒメから得られたウオノエ科もC. eremitaと同定している。
Martinら(2016)はオーストラリア産ウオノエ属Cymothoa Fabricius, 1793 12種の検索表において、
1)第1胸節前側隅は幅広く、丸いあるいは半四角形に突出する; 長さは頭部の半分を超える、
2)尾肢は腹尾節の半分からそれより短い、第7胸脚座節腹縁前隅に丸い突出を欠く、
3)第7胸脚長節腹縁前隅が丸く突出する、腹部の長さは幅に等しくない(幅広い)の特徴によってウオノエを同定している。
Cymothoa eremita (Brünnich, 1783)
ウオノエ
(図3)
観察標本 抱卵メス、BL 22.1 mm、宿主ヒメHime japonica (Günther, 1877)(標準体長 118.9 mm)の口腔、神奈川県油壷沖(相模湾)水深約65 m、coll.中屋慧。
記載 体型は楕円形で、幅広く、最大体幅(第5–第6胸節)は体長の0.48倍; 背腹に扁平で背面は平滑。生時の体色は白色; 眼は色素を欠く。
頭部は半円角形。第1胸節前側隅は前方に大きく突出し、頭部の約8割を覆う。
底板は小さい。胸脚は小さく把握的; 指節はカギヅメ様で鋭い。
腹部は台形で、最大幅は第7胸節より若干幅広い。
尾肢は腹尾節末端に届かない。
腹尾節は半円形。
分布 インド洋及びインド-西太平洋から報告される。
宿主 10科11種の魚類が宿主として知られ(Hadfieldら, 2013; Martinら, 2016)(表1)、宿主特異性は非常に低い。
『新日本動物図鑑』(椎野, 1965)では「わが国沿岸にすむ諸種の魚の口腔に寄生」と記されているが、実質日本における宿主の記録はヒメのみである(椎野, 1951; Hataら, 2017; 本報告)。
今回寄生していたのはウオノエの抱卵メスで、胸脚で宿主の舌を抱くような姿勢で口腔内にみられた。オスの寄生は見られなかった。
引用文献
Hadfield, K A.; Bruce, N.L.; Smit, N.J., 2013. Review of the fish-parasitic genus Cymothoa Fabricius, 1783 (Isopoda, Cymothoidae, Crustacea) from the south-western Indian Ocean, including a new species from South Africa. Zootaxa. 3640: 152–176.
Hata, H., Sogabe, A., Tada, S., Nishimoto, R., Nakano, R., Kohya, N., Takeshima, H., Kawanishi, R., 2017. Molecular phylogeny of obligate fish parasites of the family Cymothoidae (Isopoda, Crustacea): evolution of the attachment mode to host fish and the habitat shift from saline water to freshwater. Marine Biology. 164:105.
Martin, M.B.; Bruce, N.L.; Nowak, B.F., 2016. Review of the fish-parasitic genus Cymothoa Fabricius, 1793 (Crustacea: Isopoda: Cymothoidae) from Australia. Zootaxa. 4119(1): 1–72.
椎野季雄,1951.日本産魚類に寄生する等脚類に就いて.日本水産学会誌, 16(12): 81–89.
椎野季雄.1965.うおのえ.In岡田 要・内田清之助・内田 亨監修,新日本動物図鑑(中).p.544, No.726.北隆館,東京.
文責 齋藤暢宏
表1 Cymothoa eremita (Brünnich, 1783)の宿主


図1 ヒメHime japonica (Günther, 1877)(標準体長 118.9 mm)の口腔内に寄生しているウオノエCymothoa eremita (Brünnich, 1783)。
神奈川県油壷沖(相模湾)水深約65 m、coll.中屋慧。

図2 宿主ヒメHime japonica (Günther, 1877)(標準体長 118.9 mm)、神奈川県油壷沖(相模湾)水深約65 m、coll.中屋慧。
イナダの外道として1個体釣獲。口腔内にウオノエCymothoa eremita (Brünnich, 1783)が寄生。


図3 Cymothoa eremita (Brünnich, 1783)ウオノエ、抱卵メス(BL 22.1 mm)、宿主ヒメHime japonica (Günther, 1877)(標準体長 118.9 mm)の口腔、神奈川県油壷沖(相模湾)水深約65 m、coll.中屋慧。
